ページ

2011/01/10

シネマ哲学カフェ/『海炭市叙景』

熊です。

今年も始まりました、
シネマ哲学カフェ。
参加者は9名。
新年早々、
ありがとうございました。

とりあげた作品は『海炭市叙景』。
新聞に取り上げられたらしく、すごい人でした。

41歳で自殺した不遇の小説家、佐藤泰史の未完の短編小説が原作の映画。仕事、家族、土地などいろいろなトラブルを抱えるひとたちが淡々と描かれていく作品で、予想していたよりも激しいシーンが多く、観た後は、なんだか心が砕かれたかんじがしました。

(映画を観ていないかた、この下は映画の内容が記載されています。読みたくない方は、気をつけてください)。



さて、ストーリーは手抜きしてパンフレットからの引用です。

その冬、海炭市では、造船所が縮小し、
解雇されたふたりの兄弟が、なけなしの小銭を握りしめ、
初日の出を見るために山に登ったのです…。
プラネタリュウムで働く男は妻の裏切りに傷つき、
燃料店の若社長は苛立ちを抑えきれず、
父と折り合いの悪い息子は帰郷しても父と会おうとせず、
立ち退きを迫られた老婆の猫はある日姿を消したのです…。

というのが、大筋なのですが……って、最初の兄弟はふたりとも解雇されてたんかい!? カフェの中で、その話も出たのですが、解雇されたのは兄貴だけという結論に至っていました。途中で、あの二人の兄弟のことを夫婦だと思っていたという人もいました。それぐらいべったりの兄弟です。

基本的な情報の読み違えが起こるほど、説明が少なく淡々とシーンが映されていきます。

そして、どの人物も何かに縛られるかのようにして、海炭市という街の中で「やり場のない想い」を抱えて、どうしようもなくなっていく。

解雇された兄は「自分には船しかない」と考えて崖へ向かい
プラネタリュウムの男は「家族」を元通りにするために裏切った妻を追い
ガス屋の若社長は「社長」でいるために浄水器売りを引き受け
その妻は「幸福」を求めて継子に暴力をふるう
浄水器売りの男は、自分の「平凡さ」を振り払うために失敗し
老婆は立ち退かず、工事が始まる。
(これはパンフの引用ではありませんが)

それぞれの人物像が、それぞれに失った幸福、かつてあった希望にがんじがらめになって、物語の悲しみは増していく。しかし、その姿は海炭市で起こっているにせよ、どこで起こってもおかしくない失敗ばかり。

ただ、それぞれの人物が交錯する路面電車の映像が、海炭市の映像がさほど美しくなかっただけに、輝いて映し出され。困難な状況のなかでも「生きていかねばならないこと」を告げるかのよう。
最後のシーンで、老婆のところに、去っていた猫が妊娠して帰ってくる。老婆がそのすべてを「受け入れる」。俺が面倒みてやるよ。




この作品の評価はけっこうばらつきました。
よかった!という人も入れば、うーんいまいちという人も。
僕は、ついつい佐藤泰史作品集を買ってしまい、これから読もうかなーと思っている次第です。この辺にしておきます、それでは、また!